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東京地方裁判所 昭和31年(タ)72号 判決

原告 テレサ・ヴエラ・レガーレ

被告 ジヨン・ライト・レガーレ

主文

原告と被告とを離婚する。

原被告間の長男アーサー・レガーレ、長女ルース・レガーレ、次男ジヨーン・フレデリツク・レガーレ、次女テレサ・イサベラ・レガーレの監護者を原告と定める。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告はフイリツピン共和国、マニラ市に生れたフイリツピン人であり、被告は同じくマニラ市で生れたが、被告の父母がいずれもアメリカ合衆国人であるので、アメリカ合衆国国籍法によりアメリカ合衆国人である。

二、原告と被告は西暦千九百四十九年三月十二日フイリツピン共和国マニラ市の教会でフイリツピンの方式により適法に結婚し、同月十八日マニラ市の戸籍吏に右結婚を届け出た。

三、被告は乱暴な始末におえない気質で原告の気紛れなところも認めるが、結婚した年の十一月頃激論のあげく、原告の顔を手で殴る、足で体を蹴るの乱暴をし、その後も酒に酔つたときとか、飲まないときでも些細な事柄から原告を殴る蹴るの虐待をし、千九百五十年の十一月頃には被告の虐待を原告の母が告訴し、そのため被告は暫らく警察に監禁されたことがあつた。斯かる被告の乱暴な行為は婚姻生活中継続されたが、千九百五十三年の初め頃には原告と被告の婚姻生活は平和裡に過すことができない程悪化し、同年三月頃被告は原告と別居したいと云つて、その日原告の許を去り、その後三ケ月程してアメリカ合衆国に帰つて了つた。原被告間には、千九百五十年五月八日に、長男アーサー・レガーレ、千九百五十一年八月十五日に長女ルース・レガーレ、千九百五十二年十月二十一日に次男ジヨーン・フレデリツク・レガーレ、千九百五十三年十月二十八日次女テレサ・イサベラ・レガーレが夫々生れたが、被告が原告の許を離れて以来、原告が四人の子の監護教養の責任を負担している。原告は被告が原告と婚姻を継続する意思があるか否かを確めるなどの目的で、本年(千九百五十六年)一月に日本に来たが被告にはさきに述べたような事情から原告のところに復帰してくる見込は全然ない。原告は現在肩書地に永住の意思で居住している。

四、法例第十六条第二十七条第三項によれば離婚はその原因たる事実の発生した当時における夫の本国法によるとされているから本件離婚の準拠法は夫たる被告の本国法であるアメリカ合衆国フロリダ州の法律であり、同州の法律によれば前記のような被告の行為は「悪意で、執拗で、しかも一年間継続的に行われた遺棄」又は「極端なる虐待」及び「はげしい、しかも始末におえない癇癪を常習的におこすこと」として離婚原因を構成するが、アメリカ合衆国の国際私法によれば離婚は少くとも夫婦のいずれか一方の当事者の住所のある地の法廷地法によることになつているから法例第二十九条によつて本件離婚の準拠法は日本国の法律が適用され、右原告主張の離婚事由である事実は日本民法第七百七十条第一項第二号又は第五号に該当するので本件離婚ならびに原被告間の四人の子の監護者を原告と定める旨の判決を求めるものであると述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は原告の請求どおりの判決を求め、原告の主張事実をすべて認めると答えた。〈立証省略〉

理由

公文書であるから真正に成立したと認められる甲第一号証(婚姻契約書)及び第四乃至第七号証(出生証明書)ならびに甲第八号証(フロリダ州公証人作成に係る被告の口供書)によれば原告はフイリツピンの国籍を有し被告はアメリカ合衆国の国籍を有するものであつて、原告と被告は千九百四十九年三月十二日フイリツピン共和国マニラ市のサンタ・メサ・カトリツク教会で正式に結婚し、同月十八日右結婚をマニラ市の戸籍吏に届け出たこと、原被告は婚姻後マニラ市に居住し、原被告間には千九百五十年五月八日に長男アーサー・レガーレ、千九百五十一年八月十五日に長女ルース・レガーレ、千九百五十二年十月二十一日に次男ジヨーン・フレデリツク・レガーレ、千九百五十三年十月二十八日に次女テレサ・イサベラ・レガーレが夫々生れたことがいずれも認められる。更に公文書であるから真正に成立したと認められる甲第二号証(原告の旅券)及び原告本人尋問の結果を綜合すれば、厚被告間の夫婦仲は被告が原告に乱暴な行為を続けることがあつて、次第に円満を欠き、千九百五十三年の三月に至り、被告は原告の許を去り、アメリカ合衆国に帰り、その後原告のところに復帰せず、現在肩書地に居住していること、そして原告は被告が原告の許を離れて以来、四人の子供達の監護、扶養の任に当つていることが認められ、右事実認定に反する証拠はない。

原告は被告の婚姻継続の意思を確めるため千九百五十六年一月来日し、肩書地に起居していること、当分相当期間日本に居住する意思を有していることの各事実は、甲第二号証及び原告本人尋問の結果によつて認められるから原告は肩書地に住所を有している者と云うことができる。

被告はアメリカ合衆国の国籍を有するものであり、甲第八号証によれば、同国のフロリダ州に属する者であると認められるから本件離婚は法例第十六条、第二十七条第三項により離婚原因が発生した当時における夫である被告の属する地方すなわち右フロリダ州の法律に準拠すべきところ、アメリカ合衆国国際私法は離婚は当事者の所在国の法律によるものとされているから、原告は現在肩書地に住所を定めていることは前認定のとおりなので、法例第二十九条の規定により本件については日本国民法を適用して判断すべきものである。

そこで前示認定事実にもとづき考えるに、原告は同民法第七百七十条第一項第二号に規定せられたる配偶者から悪意で遺棄されたときに該るものと云わなくてはならないから本件離婚請求は理由がある。

次に離婚当事者間の未成年である子の監護者を当事者の何れに定めるかは、親子間の法律関係であるから法例第二十条に則り、本件は子の父である被告の本国法によつて決定する。アメリカ合衆国フロリダ州の法律によると父母が離婚するときは、申立によつて子の監護者を定める旨が規定されているから、本件離婚原因事情より判断して、原告を前記原被告間の四人の未成年の子の監護者と定めるを妥当とする。

よつて原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤令造 田中宗雄 間中彦次)

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